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東京高等裁判所 昭和37年(ラ)578号 決定 1962年11月10日

抗告人 上原登美枝

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は「原決定を取り消し、さらに相当な裁判を求める」と申立て、その抗告の理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

本件記録によれば、原告、抗告人被告、株式会社東京青汁(旧商号東京遠藤青汁株式会社)及び多賀安郎間の東京簡易裁判所昭和三十七年(ハ)第二九八号家屋明渡請求事件について、昭和三十七年七月三十日被告等敗訴の判決があり、その判決は多賀安郎を被告会社の代表者兼被告として、同人に対してのみ送達がなされた。同会社は、その代表取締役は中村四郎であつて、多賀安郎には同会社を代表する権限がなく、中村四郎は同年九月十九日に至つてはじめて上記訴訟が係属していたこと及び被告会社に敗訴の判決がなされたことを知つたと主張して、同年九月二十二日控訴の申立をなすとともに原裁判所に対し本件強制執行停止の申立をなしたものであることが認められる。

右のように、法定代理権の欠缺を主張し、判決送達の効力を争つて控訴をなし、一方相手方において判決が確定したことを主張して強制執行をなすおそれのある場合においては、裁判所は民事訴訟法第五百条を準用して申立により保証をたてしめ又はこれをたてしめずして強制執行を一時停止すべきことを命ずることができるものと解するを相当とする。

本件記録編綴の株式会社東京青汁代表取締役中村四郎作成の上申書と題する書面、多賀安郎作成の証と題する書面及び登記簿謄本によれば、抗告人の主張を参酌したとしても、前記会社の主張する事実は法律上理由ありとみえ且つ事実上の点についてもその疏明がなされているから、原裁判所が控訴人である同会社に金六万円の保証を立てさせた上前記判決に基く強制執行を昭和三十八年三月二十五日まで一時停止すべきことを命じた決定は相当であるというべきである。

よつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担として主文のとおり決定する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

別紙 抗告理由書

一、昭和三十七年七月十七日抗告人は、多賀安郎及び東京遠藤青汁株式会社を相被告として家屋明渡請求の訴を東京簡易裁判所に提起した

二、その結果、昭和三十七年七月三十日抗告人勝訴の判決言渡しがあつた。

その主文は次の通りである。

被告等は原告に対し別紙物件目録記載の家屋を明渡せ

訴訟費用は被告等の負担である

三、而して之に対し

(イ) 昭和三十七年八月十三日、被告等に右判決は送達され、

(ロ) 控訴の有効期間である昭和三十七年八月二十七日迄に控訴は被告等から提起されなかつた。

(ハ) 従つて本件家屋明渡請求事件の判決は昭和三十七年八月二十八日確定した。

(ニ) 因つて、抗告人は、昭和三十七年九月三日、東京簡易裁判所に申請確定したる本判決の執行力ある正本の付与を得て、昭和三十七年九月十二日、明渡の為、第一回の強制執行を行い、明渡の勧告を行つた。

四、之に対し、

(イ) 株式会社東京青汁(旧社名東京遠藤青汁株式会社)代表取締役中村四郎は、東京地方裁判所に右強制執行の停止の申請を為し、左の通り決定を得、

昭和三十七年(モ)第一三〇八八号

強制執行停止決定

当事者の表示 別紙当事者目録のとおり

申立人は被申立人から申立人に対する東京簡易裁判所昭和三十七年(ハ)第二九八号

事件の判決に対し適法な控訴を提起し、かつ、右判決に基く強制執行の停止を申し立てた。当裁判所はその申立を理由あると認め、申立人に金六万円也の保証を立てさせて、次のとおり決定する。

主文

前記債務名義に基く強制執行は昭和三八年三月二五日まで停止する。

昭和三十七年九月二十五日

東京地方裁判所民事第九部

裁判長裁判官 岩野徹

裁判官 青山達

裁判官 猪瀬慎一郎

当事者目録、物件目録、各省略、

右正本である。

昭和三七年九月二五日

東京地方裁判所民事第九部

裁判所書記官補 酒井整

右正本は被申立人上原登美枝に昭和三七年九月二八日送達された。

(ロ) 更に同申立人は同被申立人に対し、本件執行文付与に対し東京簡易裁判所に異議の申立を為し、

別紙の通り昭和三七年九月二十六日、却下の決定を得た。本決定の理由は之を要するに、

1 商号変更の事実は裁判所に届出なく、判決正本は旧商号会社宛に送達され、その受取人が新旧商号会社の取締役であるから、判決正本は正当に送達されている。

2 民事訴訟法第五七条によれば『代理権の消滅は本人又は代理人より之を相手方に通知するに非ざれば其の効なし』と規定されている、然るに本件訴訟に於て、代表者の変更につき届出なく、代理権の消滅につき被申立人である上原登美枝に通知した証拠がない。

従つて判決正本は適法に送達されて居り、執行文付与は適法である。

の二点に帰する。

五、商号の変更、代表者の変更は、新代表者から前記の申立乃至申請がある迄前記訴訟に於て届出がなかつたので裁判所も上原登美枝も知る由がなかつた。

従つて、判決正本の送達も旧会社宛、旧会社所在地(新会社も同じ)に送達せられた、訴提起当時の申立人会社代表者多賀安郎は商号変更後も新代表者中村四郎から工場の一切を任せられて仕事をして居り、取締役の地位はそのまゝ継続して今日に至つているのであるから、多賀安郎が判決正本を受取つて居れば之を中村四郎に仮りに見せなかつたとしても適法な送達があつた事は間違いない。従つて、新代表者中村四郎の名に於て新たに控訴をしても適法の控訴とは言えないのである。

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